技術者ワーママ こころとからだの修理日記

技術職のワーママです。初期乳がん見つかったりうつになったり。でも何とか生きてます。

つくり話 隠された街 9

前回の続きです。

 

アキは千草の部屋から出ると、タブレットの画面をタップした。世話をしていた間の千草の健康状態が表示され、対応したケアの項目がチェックされる。任務終了と表示され、報酬としてのポイントがすぐ支払われた。リアルタイムで表示されるケアの必要な対象者のリストから、ケアする人を選んで世話をしに行くシステムだ。近くの部屋がリストに出ていたので、そこにも寄ってから自分の部屋に戻ってきた。夕方のお世話も2件予約しているから、今日もいつも通りの収入は確保できるだろう。

「ただいま〜」

と声をかけて部屋に入る。そろそろリュウが昼食の時間になるはず。奥の部屋のドアをそっと開けると、リュウはゴーグルをかけてプラットホームの中で走っている。ランニングマシンのように下が動くので、部屋にいても運動不足にならずに済むらしい。

冷蔵庫から材料を出して昼食の準備を始める。リュウの好きな焼きそばだ。スーパーで食材を買うようになってからはほぼ自炊するようになった。デリバリーも高くはないが子供と2人なら自炊した方が安上がりだ。何より自分の手料理を温かいうちに子供と一緒に食べられるのはありがたかった。

授業が終わったらしく、リュウはお辞儀をするとゴーグルを外してプラットホームから出てきた。

「ママ、お昼の時間だって!今日のお昼は何?体育でお腹空いた〜」

リュウは洗面所で顔と手を洗ってキッチンの様子を伺った。

「今日は焼きそば作ったよ、どうぞ」

「やった!ソーセージたくさん入れてね!」

「はいはい、たくさん入ってるわよ。」

勢いよく焼きそばを食べるリュウを見ながらアキは冷蔵庫から麦茶を出した。コップに注いでテーブルに置くとリュウは一気に飲み干した。

「そんなに慌てなくても大丈夫だから。」

笑いながらアキは言った。そう、もう大丈夫…我が子が息を潜めて部屋の隅にじっとしていた姿を思い出した。『ユウ』が私を見つけて助け出してくれた。正直この先どうなるのかはわからないが、少なくとも自分が働いて得た報酬で、必要なものを買って生活は出来ている。今はそれで充分だ、とアキは思っていた。

「リュウ、今日はどんな授業があったの?」

焼きそばを口いっぱいに詰め込んだリュウは慌ててそれを飲み込むと嬉しそうに話し始めた。

「さっきは体育で、みんな一列で100メートル競走したんだ、僕は3位!すっごく早い子がいるんだ、おっきな猫みたいな奴。チーターって名前なんだって。他には算数もやったよ。目の前にりんごとか出てきて増やしたり減らしたり、あげたりもできるの、面白かった。あと、みんなで英語の歌も歌ったよ、今度ママにも聞かせてあげる!」

「そう、楽しそうだね。仲のいい子はできそう?」

「うん、面白いよ。同じクラスにカッパの子がいるんだけど、その子がする妖怪の話がすっごい面白いんだ。仲良くなれそう。僕も色々な話しりたいって言ったら、図書館に行けば本が読めるよって教えてもらったんだ。今度図書館行きたい。」

リュウは言い終わるとまた焼きそばを頬張り始めた。

「そっか。じゃあ図書館の行き方調べておくね。今週行けたら行こうか?」

首を縦に振りながら、リュウは焼きそばをあっという間に平らげた。おかわりの麦茶も飲み干すと

「ごちそうさま!お昼休み遊んで来る!」

ど自分の部屋に行くとゴーグルをかけながらプラットホームに入って行った。

にほんブログ村 病気ブログ 乳がんへ
にほんブログ村 ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村