つくり話 隠された街 5
前回の続きです。
「ママさんはどんな名前が良いかにゃ〜?」
ニャーに聞かれた彼女がリュウを見ると、
「『アキ』がいい!ドラゴンが守るお姫さまなんだよ!」
と目を輝かせている。彼が小さい頃から好きだった絵本。ドラゴンに変身できる能力を持つ王子様が魔王に囚われた姫を助ける話だ。その姫の名前がアキだった。彼女は微笑んだ。
「ありがとう、リュウ。ママのこと守ってくれるのね。じゃあ、『アキ』にしようかな?ニャーさん、アキって名前、つけられますか?」
ニャーがタブレットを見ながら答える。
「えぇと、カタカナの『アキ』で良いかにゃ?それなら登録がないにゃ。漢字の場合はいくつか登録があるけど、ほかの漢字なら大丈夫にゃ。」
彼女が頷くとリュウが満足そうに
「ぼくがちゃんと守ってあげる!魔王が来ても追い払うからね!」
と彼女の前に立つと胸を張った。
「次は姿をどうするかなんだけど…」
ニャーが言い終わる前にリュウが話し始める
「えっとね、髪の毛は長くて赤っぽい茶色、ツヤツヤしてるの。目は緑色で…」
「ちょ、ちょっとまって!人型なんだね。細かいところはアバターツールがあるからそれで作ろう、ね?リュウのドラゴンも色々決めたいでしょ?」
というと慌ててもう一つタブレットをポケットから取り出すとリュウに見せた。
「やった!じゃあぼくのドラゴンからね!」
リュウは目を輝かせてタブレットを手に取った。
「これでぼくのドラゴンと、ママのお姫さまが完成!」
30分後にリュウが満足そうに空間を見つめた。水色のドレス、浅葱色の長い髪、グレーのかかった緑色のパッチリとした瞳と、筋の通った鼻、小さく形の整った唇の女性にニャーはうっとり見惚れていた。
「美しい…リュウ、君は素晴らしいセンスを持っているよ。彼女もそうだけど、隣のドラゴンもカッコいい!君、アバター作りのバイトしない?きっとみんな喜ぶと思うんだ。」
前のめりでリュウに詰め寄るニャーにリュウはキュトンとして聞いた。
「バイトって…お仕事のこと?ぼくお仕事でお金もらえるの?」
「えっ、リュウはまだ小さいからお仕事はお兄ちゃんになってからじゃないと…」
といいかけたアキにニャーは首を振って、リュウに目線を合わせて説明した。
「シェルターシティなら小さい子でもお仕事ができるんだよ。ここで使えるお金をもらって、この中で買えるものならほとんどのものと交換できるんだ。お菓子やおもちゃでもいいし、学校で使う勉強道具でも。君が仕事をしたい時に、仕事があればいつでも働くことができるよ。もし手伝ってくれたら僕も助かる。今返事しなくても大丈夫だから、考えておいてくれるかな?」
「うん!ぼく自分でお仕事して、好きなお菓子たくさん買うよ、ゲームも欲しいな!ママ、いいでしょ?そしたらママも助かるよね?」
「えっ…ああ…リュウがやりたいならいいよ。学校の時間以外でお仕事するなら。あと、お菓子食べすぎてご飯食べられないってならないようにしてね。」
「やった!お仕事してたくさんほしいもの買う!」
リュウが飛び跳ねながらニャーに宣言した。
私より先に子供の方が仕事決まるなんて…彼女は戸惑いながら、この街での生活に希望を見出していた。
「じゃあ、アキさん、リュウ、アバターできたし、街に出てみましょ。街の紹介しながらお家まで案内しますね。」
ニャーとラビが立ち上がると、部屋の奥にある扉を開けた。