技術者ワーママ こころとからだの修理日記

技術職のワーママです。初期乳がん見つかったりうつになったり。でも何とか生きてます。

つくり話 隠された街 6

前回の続きです。

 

扉の外には煉瓦造りの街並みが続く。街路樹の緑が青い空に映えている。建物の入口に近づくと、扉の上に「小学校」「病院」などの文字が表示される。装飾のついた軍服を着た王子様の格好で、リュウは面白がって走りながら扉に近づいたり離れたりして遊んでいた。2人はさっきリュウが作ったアバターに変わっている。アキはドレスの裾が地面に着いている気がして何となく落ち着かない。

 

ラビが前方を歩きながら説明する。

「ここが街のメインストリートです。字がでてくるから大体分かると思うけど、大体の施設やお店はこの通りに入口があります。もちろん扉を開けて中に入ることもできますが、お部屋からバーチャルで入って施設を利用することもできます。例えばここにあるスーパーは、リアルで来る人より部屋からアクセスする人の方が多いです。売り場に出てる野菜も好きなものをチェックして選べるんですよ〜。お二人には後ほどバーチャルでお店の案内しますからね。」

 

時折、遠くの方に誰かが歩いているのが見えた。人だったり、犬だったり、服装もまちまちだ。特にこちらに興味を示す事もなく、建物の入口に入っていく。

「ここってどれくらいの人がいるんですか?あまり人通りがないみたいですけど。」

アキがラビに聞くと、

「あぁ、今この通りに歩いてる人はリアルにここを歩いてる人だけなんですよ。今の時間帯は食事時だからほとんどの人が部屋にいるんです。レストランもあるんですけど、食事はデリバリーで同じもの食べられるし、外だとゴーグル外せないから。人数は僕も詳しくは知らないんですけど、数える気にならないくらいたくさん人がいますからご心配なく。お部屋のある建物見たら分かりますよ、もうすぐです。」

 

建物が一度途切れ、街路樹がトンネルのように並んでいた。しばらく歩くと数え切れないほどのマンションが並ぶ住宅街が現れた。同じ建物が並んでいて、迷子にならないかしら、とアキが心配していると一つの建物の周りが赤い光に包まれているのに気づいた。

 

「2人のお部屋はあっちの赤く光ってる建物にゃ!思ったより近くで良かったにゃ〜。」

ニャーが嬉しそうにこちらを振り返りながら光る建物を手で示した。

「そうそう、最近入る人は中心部から部屋が遠い人が多くて、僕たち案内する時も結構歩くんですよ〜。リュウがまだ小さいから学校の近い部屋にしてくれたのかもしれないですねぇ。」

ラビもホッとした様子でこちらを見た。

歩くこと数分で部屋のある建物にたどり着いた。建物の入り口に近づくと電子音が鳴り自動ドアが開く。ラビがエレベーターの前に立つと扉が開いた。

「お二人のゴーグルがキーになってます。部屋も電子キーになっているので同じように入ることができます。エレベーターも部屋のある階に自動的に行きます。他のフロアには入れません。」

「これ、うっかりゴーグルつけ忘れた場合とか、停電の時とかどうなるんですか?」

アキが質問するとニャーが答えた。

「ゴーグルつけないと部屋の外に出られないから安心してにゃ。あと、もしゴーグルがバッテリー切れになった場合は、直接ゴーグルをドアノブに近づければ大丈夫にゃ。停電は…この街は独立したインフラを持っているし全体で停電時のバックアップ電源は確保されているから少なくとも今まで問題になったことはないにゃ。」

「もちろん日本には地震や台風の災害もあるから、最悪の事態を想定したマニュアルは作ってます。基本住居の扉は開錠されるので、閉じ込められたりする心配はないです。避難訓練のようなこともあるので、その時に詳しく説明しますね。では、こちらがお部屋です。どうぞ開けて中へ。」

リュウが赤く光るドアに手をかけて中に入っていった。

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