技術者ワーママ こころとからだの修理日記

技術職のワーママです。初期乳がん見つかったりうつになったり。でも何とか生きてます。

つくり話 再会⑥

前回の続きです。

 

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結局次の週、『情報』の授業中に彼は簡単なゲームを作ってUSBメモリに入れていた。パソコンにつないでそのまま遊べるようにしてある。学校のパソコンのセキュリティーが甘くて助かった。

健人と優香は両脇から彼を挟んでコソコソ2人で遊んでいた。当然授業中の課題は彼のを見ているから直ぐに終わる。先生も一応課題を終わらせてはいるので見逃してくれているようだが、時々盛り上がってくると

「コラそこ、調味料コンビ。静かにやれよ。」

と注意されるようになった。サトウとシオで調味料らしい。この呼び方が気に入ったのか注意するのが嬉しそうだ。

「俺はむしろ被害者ですけど…」

と彼が不満そうに呟くと、

「そんなこと言って、なんだかんだゲーム作ってくれるし、楽しんでるでしょ?」

と健人がニヤニヤしている。何だか悔しい。

「佐藤、どうせちっさいパソコンあるでしょ?今度持ってきて帰りに3人で対戦しようぜ」

「なんでだよ、俺は嫌だよ。」

「それいいね!佐藤くんもやろうよ。」

「なっ?三木もやりたいって!」

「…分かったよ」

「決まりな。明日でいいか、三木?」

「あ、うん、大丈夫。」

「いや、俺の予定聞けよ…」

こうして3人は授業以外の時間を一緒に過ごすようになった。

 

彼のモバイルパソコンを学校に持って行き、放課後に学校近くのケーキ屋やアイス屋で小1時間彼の自作のゲームでひと遊びする。ゲームしながらハンデを設定できるようにしてとか、デザインをもっと凝ったものにしてとか色々注文をつけてくるので、修正してはまた2人に見せた。彼にとっては2人はいいモニターになり、自分の作ったゲームを2人が楽しそうに遊んでいると嬉しかった。

一通り遊ぶと、他愛のない話をしてから最寄駅まで一緒に帰った。電車が反対方向なので、2人とは改札を通ったところで別れる。3人で集まるのは週に一度くらいで、普段はそれぞれ別の友人と過ごしていた。

 

 3年になると理系の彼は2人とは別のクラスになり、授業を一緒に受けることもなくなった。それと同時に、放課後に3人で過ごすこともほとんどなくなった。何故か健人にくっついていたカースト上位の女子達と優香が一緒に過ごすようになったようだ。少し残念だったが優香が健人の友達として認定されたのだと彼は思っていた。

 

その認識がどうやら間違っていたらしいと気付いたのは、優香と今まで一緒にいた女子に捕まった時だった。

「ちょっと佐藤!」

人気のないところまで連れていかれ、何故か女子2人に詰め寄られる。

「ねぇ、優香どうなってんの?潮田君と何かあったの?あの子達なんであんなに優香マークしてんの?」

「知らねぇよ。潮田と仲いいから一軍女子に認められたんだろ?」

「バカじゃないの!?潮田君に近づけないようにするために決まってるでしょ?優香いつもパシらされてるし、潮田君いないと完全無視だし。私達が行っても追い払われて話も出来ないけど。」

「俺にどうしろって言うんだよ、潮田に言えよ。」

「潮田君に気づかれないようにやってんだから言っても無駄でしょ?元はと言えばあんたのせいなんだから助けなさいよ!」

「なっ…俺は被害者だよ、意味わかんね」

「とにかく何とかしなさいよ、あんただって優香と仲良かったんでしょ?」

一方的に責め立てると彼女達は去って行った。

 

腹は立つが、言われてみると優香の様子は少しおかしい気もする。とはいえ一軍女子集団に突っ込んでいく勇気もない。仕方なく翌日教室のドアから健人が1人になったタイミングで声を掛けた。ちょうどよかった、と逆に人気のないところに連れていかれる。

 

「佐藤にまだ言ってなかったと思って…俺さ、卒業したら三木と付き合うから。お前のおかげだな。」

「はぁ!?」

いきなりの告白で言葉が出ない。

「3人で帰りに遊んでたろ、帰りは2人だったから色々話してるうちにさ…告ったら、お互い受験だし、卒業まで待って、って。」

「…それ、答え先送りにしただけなんじゃ…?」

健人は意に介さず、

「受験終われば付き合うって事だろ?まぁ、俺推薦だから早めに決まるけど。」

自分がフラれる想定は全くないようだ。ポジティブなのか頭が悪いのかよく分からない。

「だから三木が一軍女子に捕まってるんだろ、いいのか?居心地悪そうだぞ。」

「そうか?みんな健人の未来の彼女だから優しくしなきゃって言ってるぞ?」

「アイツらにも喋ったのか!?」

間違いなくこいつが原因だ、頭が痛くなってきた。

「お前…付き合うつもりならしっかり守れよ…」

「おぅ、当たり前だろ。じゃな。」

と爽やかに行ってしまった。これ以上言っても状況が悪化する気しかしない。とはいえ放置するのも寝覚めが悪い。

 どうしたもんか…優香に学校で声をかけるのも気後れする。一軍女子の反感を買いそうだ。

 その時ふと以前SNSの話をした事を思い出した。確か彼女はスマホでアカウントを作ったばかりで、一緒にやろうと言われたのだ。まだガラケー持ちだった健人は、家にパソコンもないしと乗り気ではなかった。彼はそのSNSのアカウントは持っていたが、完全PCオタク全開で彼女に見せられず、興味がない、と断ったが、これなら直接やりとりが出来る。

 確か名前のローマ字がアカウントだったな、と調べてみると、見覚えのある画像が見つかった。彼が作ったゲームのキャラクターを彼女が何故か気に入ってスマホで撮った画像だ。最新の投稿には一緒に行っていたケーキ屋のケーキの画像があった。まだやってるんだ、と思って見た彼は息を呑んだ。

 彼女の投稿に対する誹謗中傷が大量に書き込まれている。中には彼女を擁護するコメントもあったが、彼女の人格を否定したり、異性にだらしないといった悪意あるコメントが書き込まれていた。複数のアカウントから書き込まれているが、内容はほぼ同じだから、一人で複数アカウントを作って書き込んでいるのだろう。しばらく更新はされていなかった。

 

彼は新しいアカウントを作って彼女のアカウントをフォローした。そして、彼女が見てくれる事を願ってメッセージを送った。

 

「Yuukaさん、はじめまして、シュガーです。美味しそうなケーキですね、私もケーキ好きです。良かったらお友達になってもらえますか?」

 

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