つくり話 再会 15
前回の続きです。
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翌週、彼は李のいるスタジオを訪れた。
「こんにちは佐藤さん、準備できてますよ。」
李は笑顔でゴーグルとスマートスーツを手に出迎えてくれた。彼はそれを受け取ると、USBメモリを差し出しながら尋ねた。
「彼女の通っていた学校の近くを動画で撮ってきました。彼女に見せてもいいかな?」
李はそれを受け取ると
「多分大丈夫。確認するからスーツ着て下さい。」
と奥の部屋に行った。パソコンで動画を早送りでチェックし始めた。
「…はい、これならVRの中で再生できます…この人は誰ですか?」
健人の映った画面を見ながら彼に問いかけた。一瞬答えに詰まった後に
「共通の友達です」
と答えた。
李はその動画のファイルをコピーし、画面で開いているソフトに読み込んだ。どうやって中で再生するのだろう、と彼はスマートスーツに体を押し込みながら眺めていた。
「佐藤さん、ユウカはもう入ってます。ゴーグルつけてその椅子に座ってください」
彼が椅子に座るのを見届けると、
「OK、いってらっしゃい」
と言いながらキーボードのリターンキーを叩いた。
「佐藤くん、来てくれた!ありがとう。」
優香はベッドに腰掛けながら彼の方を向いて言った。今日はパステルピンクのブラウスにグレーのフレアスカートを着ていた。服も変えられるんだと彼は驚いていた。
「久しぶり、調子はどう?」
と彼が尋ねると
「うん、佐藤くんとたくさん話せるように頑張ってる。今日はこの前より長く話したい。」
「そうだな。そうだ、三木に見せたいものがあるんだ。高校の近く見たいってこの前言ってたよね?日曜日に動画撮ってきたんだ。見てみる?」
「本当!嬉しい。見せて。」
彼女が立ち上がった。きっと喜んでくれていると思うがいかんせん表情も口調も変わらないので何だか不思議な感じがした。
李の声が聞こえた。
「ユウカ、佐藤さん、再生するからカーテンの方見てくださーい。」
部屋の窓にかかっているカーテンが白いスクリーンに変わり、プロジェクターのように動画が映し出された。まるでホームシアターのようだ。すごいな、とかれが感心していると、母校がスクリーンに映し出された。
「あれ、校舎増えた。新しくなったんだ。」
と優香が身を乗り出した。
「そうそう、変わったんだよね。でも講堂の建物は変わってないよ、ほら、奥にある」
「本当だ。」
画面は学校から周りの景色へと変わった。彼女は食い入るようにその画面を見つめている。健人と話しながら歩いたので音も入っていたはずだが音は聞こえなかった。
「この辺は変わってないね。この自販機、まだおまかせドリンク売ってる。よくみんなで買ったよね。」
「そう、夏にキンキンに冷えたおしるこ出てきたよな。」
「そうそう!懐かしい。この公園も。小さいのにブランコ4つ並んでる。並んで漕いでた。」
「そうだね」
昔と変わらないものを見つけるたびに彼女は懐かしい、と喜んでいるようだった。彼はほっとしていた。彼女の言う『みんな』は彼と健人の事だ。きっと健人のことも懐かしいと言ってくれるだろうと思っていた。
ケーキ屋の前にさしかかる。
「ケーキ屋さん!ほとんど変わらない!」
彼女は夢中で見ていた。これなら大丈夫。
ところが画面にモバイルでゲームをしている健人が出てきた瞬間に事態は一変した。
「…誰?」
彼女ははじめにそう言った。…覚えてない?
「健人だよ、三木。潮田健人。」
そう彼が答えると彼女の全身にノイズが現れた。ただごとではない、一気に血の気が引いた。
「三木?どうしたの?」
「ケ…ン…ト…ワたし…シュガー…あぁ…」
全身のノイズが増えていき、ビィーーという甲高い音が部屋全員に響き渡る。
「三木!?」
「No!!!」
上から声が聞こえ、急に目の前が真っ暗になった。