つくり話 隠された街 3
「ようこそ、『ケイ』さん。無事に到着出来て良かった。息子さんも元気みたいだね。ここまで来れば大丈夫、安全だから。」
彼女に『ユウ』は微笑みかけると言った。
「『ユウ』が助けてくれたから…ありがとう。ここはどういう場所なの?」
「車の中で『シュガー』が話してたと思うけど、ここは小さな街なんだ。普通の街と違うのは、街の外の世界とは遮断されているということと、街の中でバーチャルの世界とリアルの世界がつながってる所かな。今『ケイ』さんゴーグルつけてるよね、それでお店や職場の空間にアクセスすれば買い物も仕事もできる。慣れてきて希望があればリアルな空間にも行くことが出来るからね。詳しくは後でこの2人が説明してくれるよ。」
向かい側に座ったウサギと猫が手を振って応える。いつのまにか子供も2人の間に座ってお菓子をもらってご機嫌で食べていた。
「ここに来る前にスマホは預かったと思うけど、『ケイ』さんたちの安全のためにここにいる間は街の外の人とは直接連絡は出来ないんだ。ただ、自分が今安全な場所にいることを知らせたい人には僕たちが代理でメッセージを伝えるから後で連絡したい人を教えてね。」
彼女は頷くと
「みんなに黙って来ちゃったから…伝えておかないと。ここにはどれくらいの間いられるの?」
と不安げに聞いた。
「好きなだけいられるよ。と言っても、この街ができてからそれほど経ってないけどね。住むところもあるし、仕事もできるし、欲しいものは手に入るから、いつまででも。もしこの街を出る時には、安全に過ごせる場所を探して、仕事や学校も困らないようにサポートもするから安心してね。今全部説明すると疲れちゃうと思うし、詳しいことは部屋に着いたらガイダンスを見られるから、後で確認してみて」
『ユウ』の言葉を聞いても、彼女は落ち着かない様子だった。
「そうなんだ…ありがとう…でも、仕事してて『あの人』に見つかったりしない?」
「仕事も基本的に街の中か、オンラインでもごく限られた人としか関わらないから大丈夫だよ。あと、この街ではここだけで使うアバターと名前で過ごすから、お互いの素性が分かることはないんだ。もちろん街の外にもね。この後、アバターを作って名前を決めてもらうから、『ケイ』さんとは違う名前にしてね。…僕もたくさんお話したいけど、先にこの2人にお願いして名前とアバターを決めようか?後でお部屋に着いたら会いに行くよ。」
「えっ、アバターって?」
と戸惑う彼女に『ユウ』は笑顔を見せると立ち上がった。彼の横にドアが現れ、そのドアノブに手をかける
「みんな、またね!」
と手を振るとドアの向こうに消えていった。
「バイバイ〜」
ウサギと猫と子供がドアに向かって手を振るのを見て、彼女も慌てて手を振った。
ウサギと猫が彼女に向き直る。
「じゃあ、アバターと名前、決めちゃいましょう!」