つくり話 再会②
前回の続きです。
「三木…?」
彼は優香の方をみて呟くように尋ねた。
「うん。佐藤くん、大人だ。
…やっぱり、佐藤くんがシュガー?」
優香は彼の顔を見ながら言った。
彼女も自分と同じようにどこかからアクセスしてるんだろうか。表情があまり変わらないのと、合成音声のような声が気になっていた。
「うん。もしかしたら余計なことしたんじゃないかとずっと後悔してた。三木に辛い思いさせたんじゃないかって…ごめん。」
優香は首を振ると
「ううん。シュガーは1番の味方だった。本当に嬉しかった。ありがとう。大丈夫。」
少し彼女の身体にノイズが見えた気がした。
「今はお父さんと一緒に仕事してるんでしょ?どんな仕事?」
「今はSNSのシステムに人工知能を使って便利にする仕事をしてるんだ。AIっていうんだけと。一緒に仕事してる人はいい人達だよ、楽しくやってる。三木は今何してるの?」
しばらく間があって、優香は答えた。
「今は、病院。リハビリしてる。ここなら自由に動けるし、勉強も出来るから、ニュースや映画も観れる。楽しいよ。」
病院?リハビリ?彼は慌てて聞いた。
「えっ。ちょっと待って。
リハビリってどんなリハビリしてるの?話してる声って三木が喋ってるんじゃないの?」
「ええと…私もわからないけど、脳波で私の言いたいことを話してくれる機械を使ってる。その機械を使うのに、練習してる。
あと、目を開けられるようになったし、身体も少し動かせる。」
ようやく彼女の状態を理解した。現実世界では会話が出来ないからここで会っているのだ。
ただ、脳波を使ったコミュニケーションの技術は難しいと言われており、まだ確立されていないのではなかったか。もしかして三木は娘のために技術開発をしているのではないか。もしくは、娘を被験者とした研究かもしれない。
恐らく想像を絶する程の時間や費用がかかっているだろう。脳波は個人差があるので、仮に彼女が思い通りに言葉を操れるようになっても、他の人にそのまま使えるわけではない。三木の執念を感じた。
出来るだけ動揺を彼女に伝えないように気をつけながら、彼は話を続けた。
「そうか、リハビリで良くなってきたんだね、良かった。俺も三木とこうやって話が出来てとても嬉しいよ。大変だったんじゃない?どれくらい前からリハビリ始めたの?」
「うーん、わかんない。」
彼女はそう言うと、上に向かって話しかけた
「ねぇ、ジョージ、私がリハビリ始めたのって何年前?」
彼が戸惑っていると、部屋全体に初めて聞く男性の声が響いた。
「ユウカ、トレーニングはじめたのは6年前だよ。」
「そっかあ、ありがとう。佐藤くん、6年前だって。」
6年前。
自分が高校を卒業してから10年が経っている。原因が何にせよ、何かがあったのは6年より前になる。もしかしたら高校の時点で何かがあったのかもしれない。だとすると、彼女にこれ以上過去の話を聞くのは酷かもしれない、と思った。それよりも、せっかく会えた彼女との会話を楽しみたい。
「三木、頑張ったんだな。すごいな。
…俺ばっかり聞いちゃったね、三木は何か聞きたいことある?」
と出来るだけ明るく聞いた。
「今高校の周りってどうなってる?駅前は工事中だったね。変わった?」
「あぁ!そうだ、工事中だったよな。三木が知ってる頃からすごい変わったよ。でかい駅ビル出来てる。あと、駅の裏側にアウトレットモールも出来たんだよ。食べるところもレストラン街がたくさんあってさ。今通ってる奴らが羨ましいよ。まぁ、あんなに誘惑多いとお金いくらあっても足りないからなくてよかったのかもしれないけどな。」
「えぇ?そうなの?行ってみたいな。そうだ、私達がよく行ってたアイス屋さんどうなったの?」
「アイス屋、通ってたなぁ。あの場所のは潰れちゃったんだ。でも、駅ビルに移転したからなくなったわけじゃないよ。あ、でもさすがにカラオケ屋は無くなったかな。あと、三木が好きだったケーキ屋はまだ同じ場所にあるよ。」
「そっかあ。いつか行ってみたいな。その時は一緒に来てね。」
「もちろん、いいよ。」
多分、難しいだろう、という気持ちが彼女に伝わらないように、願いながら彼は答えた。
次は何を話そう、と考えていると、天の声が聞こえた、たぶん『ジョージ』だろう。
「ユウカ、疲れたでしょ?今日はおわりにしよう。シュガーにはまた来てもらおう、シュガーもいいよね?」
「あ、ハイ。」
「嫌!もっとお話しする。」
駄々をこねるように優香は訴えていた。
「No, もう脳波みだれてる。正しく伝わらなくなるよ。ノイズで身体ブレるよ」
ジョージ容赦ない。
「…分かった。じゃあ最後にハグ。」
と彼女がベッドから立ち上がった。
え?ハグ?と動揺する彼の前まで来ると、前屈みになり、椅子に座った彼の背中に腕を回した。肩から背中に腕の触れる感覚が来た。
「え、三木?」
動揺する彼に
「また会いに来てね。」
と告げると
「ジョージ、終わり!」
と上に向かって声をかけた。