技術者ワーママ こころとからだの修理日記

技術職のワーママです。初期乳がん見つかったりうつになったり。でも何とか生きてます。

つくり話 再会⑨

前回の続きです。

 

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健人はその日から宣言通り優香に貼り付いていた。一軍女子から解放された彼女は元々仲の良かった女子グループに戻り、時々健人もその輪に混ざるようになった。登下校もSPのように彼女に付き添って、朝は家まで迎えに行っていたらしい。週末も家に行く、という申し出は彼女から丁重に断られたそうだ。

 

一方で彼はシュガーとして彼女とSNSでのメッセージのやり取りを続けていた。

あの一件があった日、彼女の投稿に新しいコメントがついていた。だがそれは好意的ではなく、恐らく「一軍女子」からの攻撃と思われるものだった。「彼を返して」「絶対に許さない」「早く消えろ」といった書き込みがされている。以前とは異なり、彼女達のメインのアカウントだ。

 彼はそのコメントを攻撃的な投稿としてシステムに通報した。そのうちこのコメントも削除されるだろう。

ついでに「攻撃的なコメントがあったようなので通報しました。あんまり暴言吐くとアカウント凍結されますよ。そんなに嫌ならフォロー外せばいいんじゃないですか?」とコメントを入れておいた。

これで引き下がるかどうかはわからないが、矛先がこっちに向くなら好都合だし、リアルでは健人がついてるから守ってくれると期待しよう。

 

「色々大変みたいだけど大丈夫?」と彼女にメッセージを送ると、「うん、多分。シュガーも助けてくれてありがとう」と久しぶりに返信があった。

「もしフォロー外れなかったらブロックしてもいいんじゃない?」と伝えると、「うん、そうだね。次なにかあったらそうする。」と返事が来た。

その後は最近見たテレビの話など、他愛のない話をしていた。なんとなく、今彼女を1人にしたくなかったのだ。1時間ほど、そんなやり取りを続けていたら、彼女がふと「今度シュガーと会って話したいな。電話でもいいけど。ダメ?」と聞いてきた。どう答えればいいだろう?少なくとも向こうはシュガーを女子だと思っている。しばらく考えて「今は受験で落ち着かないから、進学先決まって時間が出来たらでいい?」と返事をした。

「うん、じゃあお互い進学先が決まったら知らせようね。」

彼女からのメッセージはそれが最後になった。

 

週明けに彼女の家に迎えに行った健人は、家に誰もいなかったと困惑しながら登校してきた。電話も出なかったらしい。学校にはしばらく休むという連絡があったらしく、しばらくってどれくらいだよと担任に詰め寄っていたらしい。

そして、休んでいたのは彼女だけではなく、一軍女子の1人も休んでいたそうだ。その時はあまり深く考えていなかった。問題は解決したと考えていた。

 

ところが、そのまま2人は卒業まで学校に来なかった。正確には、一軍女子の方は系列の高校に転校することになったらしい。そして、優香は担任からも特に説明のないままいなくなってしまったのだ。

 

当然ながら健人は彼女の家に何度も行って話を聞こうとした。はじめのうちは誰もいなかったが、しばらくすると人が戻ってきた。一度は彼女の母親が憔悴しきった様子で出てきて、

「あの子は今家にいないの、申し訳ないけど、もう家には来ないで」

と告げられたそうだ。諦めきれない健人は何度も通い、彼も数回付き合わされたけど、その後は彼らが訪ねても誰も出てくることはなかった。

外から彼女の家を2人でよく眺めていた。2階に淡いピンクのカーテンの部屋があって、もしかしたら彼女が見えるかも、と中の様子をうかがっていた。一度だけ、窓が開いていて、カーテンの隙間から彼女の父親と思しき男性の姿を見たことがある。その時にちらりとこちらに気づいた男性が、険しい表情で窓を閉めた。それを見た時に、もう彼女には会えないだろう、と何となく悟った。SNSはそのままの状態で返事が来ることも、投稿が増えることもなかった。

2人が彼女の家を訪ねることはなくなった。受験生としての生活に戻り、それぞれの道に進んでいった。健人とは違う大学に進学し、卒業してからは特に会うこともなかった。

 

大学院まで進んだあとに入社した会社で健人がいることに気づいたのは数年経ってからだった。大卒で就職した彼は2年先輩であり、部署も違っていたからだ。お互いある程度出世すると一緒に仕事をする機会も増えた。彼が中心で開発したシステムを健人がプレゼンする、というスタイルが妙にハマり、社内では名コンビとして知られていた。もちろん仲は悪くなかったが、出来るだけ2人だけになるのを避けていたし、仕事以外の話はあまりしないようにしていた。優香に対する負い目がずっと心に残っていたのだ。

 

健人にも彼女のことを知らせてやりたい一方で、彼女がそれを望んでいるか自信がなかった。そして、彼女にそのことを確認すべきかも悩んでいた。彼女の記憶は残っているのか、その記憶に踏み込むことは彼女にとって辛いことではないのか。

今そこまでは判断できない。もう少し彼女と話がしたい、と思った。どちらにしても、彼女にとって彼の行動が本当に良かったのかを確認する必要はあるだろう。本人に聞く前に三木に確認した方がいいだろう。提案資料のアウトラインを相談がてら今度聞いてみることにしよう。宿題を片付けるのが先だ。

 

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