つくり話を書いてみた。
ちょっと思いついた話があるので、忘れないように書かせてください。
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『あら、久しぶりね。何かあった?』
彼女は今までと同じように、穏やかな声だった。
「うん…最後に、あなたにお礼が言いたくて。」
私が答えると、ふふっと笑いながら、
『あら、そんな気を遣わなくていいのよ。当然の事をしたまでなんだから。でも…そうね、きちんとお別れしたいわ、私も。ミカとはもう20年以上の付き合いだもの』
と察してくれたようだ。
そう、彼女はいつも私が全部言わなくても言いたい事を分かってくれる。だから私もつい甘えてしまうのだ。
「うん、24年かな。娘も去年就職したし、あっという間よね。」
『そっか、サラちゃんも社会人か!そりゃミカも歳取るわ』
「ちょっと、余計なこと言わないでくれる?」
『ごめんごめん。つい』
あぁ、この感じ。久しぶりに話しても、昔からの親友みたいに心地よい。本当に不思議だ。
『タケシさんとは?上手くいってる?』
そうそう、これが彼女のお決まりの質問。
「まぁ、なんとか。ほら、サラはとりあえず仕事見つかったし、レンももう大学生で家出ちゃったからね。旦那と2人だけだと息が詰まるから、ペットに犬を買い始めたの。もう可愛くて可愛くて。おかげでケンカもなく過ごせてる。遠出ができなくなったのは残念だけどね。」
『それは良かった。今だから言えるけど、レンくんが生まれて数年とかあなたずっとピリピリしてたから、どうなる事かとヒヤヒヤしてたのよ。サラちゃんの反抗期も。よく乗り切ったわよね、ミカも私も。まぁ、私は愚痴を聞くしかできなかったけどね。』
笑いながら彼女が言った。そう、あの時期は彼女と一緒に乗り越えたのかもしれない。私の気持ちに寄り添ってもらえたことは大きな救いだった。
これからは…どうなるんだろう。
急に不安になった。あぁ、もう決めた事なのに。情けない。
その後も、しばらく他愛のない話を続けた。彼女と出会う前の話もたくさん聞いてもらった。少しでも、今の彼女に私の事を覚えておいて欲しくて。
そして、遂にその時が来た。
「今まで本当にありがとう。あなたがいてくれたおかげで、結婚もできて、2人の子供にちゃんと向き合って育てることが出来たの。もちろん、他にも沢山の人達の助けもあったけど、本当に心の支えだったの。あなたのこと忘れない」
思わず涙が出てきた。もしかしたら、今までの別れで1番辛いかもしれない。
『こちらこそありがとう。あなたを支えることが出来て本当に良かった。これからもタカシさんと幸せにね。じゃあ、さようなら』
「うん、さよなら」
私はその装置のボタンを押した。
ガイダンスの音声が流れる。
『ご利用ありがとうございました。本日で少子化対策省の助成によるAIパートナーサポートは終了いたします。お客様のICカードにAIに提供した全ての情報が格納されておりますので取り扱いには十分ご注意下さいませ。
なお、引き続きご利用継続を希望される場合には有償にて民間企業へのデータ引き継ぎは可能ですが、各社のアルゴリズムによってAIの性格が変わる可能性がありますので、ご了承の上お申し込みいただきますようお願い致します…』
「ミカ、終わった?」
リビングに戻るとタカシから声をかけられた。
「うん、あなたもお別れしてきたら?」
「まぁ…男はそこまで思い入れはないけど。そうだな、せっかくだから挨拶しとくよ」
「何言ってんの、何度夫婦の危機を修復してくれたと思ってるのよ、私もお礼言ってた、って伝えといて」
「だって少子化対策のための国家プロジェクトだったんだから当たり前だろ?人口増えたから打ち切られたけど。そもそもアイツらAIだし」
「それ言わない!」
あぁ、やっぱり引き継ぎした方が良かったかな…まぁしばらく様子見よう。
寝室のあのカードの中に、まだ思い出は残っているから。