技術者ワーママ こころとからだの修理日記

技術職のワーママです。初期乳がん見つかったりうつになったり。でも何とか生きてます。

つくり話 隠された街 1

お久しぶりです。KOMOMONです。

つくり話、新しいタイトルです。もしよかったら読んでやってください。

 

 

「ママ、どこに行くの?」

男の子が不安そうに彼女の顔を見上げて言った。

「大丈夫・・・きっと安全なところだから、もう少し寝てていいよ。」

彼女は優しく息子の髪を撫でながら微笑みかけた。

「うん・・・でもたくさん寝ちゃってもう眠くないよ、まだ着かないの?」

彼女が返答に困っていると目の前がパッと明るくなった。今まで車内に投影されていた風景画像から、アニメのキャラクターのアップに突然切り替わる。

「お兄ちゃん、こんにちは!ごめんね、今僕たちが向かっているところには、もう少し時間がかかるんだ。着くまでの間、僕の新しい冒険のお話をしてもいいかな?」

これぼく知ってる!うん、見たい!と嬉しそうに男の子が答えると

「ありがとう!じゃぁ、新しいお話、始まるよ!」

とオープニングの音楽が流れ始めた。彼女はほっと息をついた。

 

 乗っている車は自動運転で他に人は乗っていない。窓はないのでどこに向かっているか彼女にもわからなかった。風景やアニメの動画が映っているので少なくとも子供が退屈しない程度の工夫はされていた。

 彼女が子供を連れて家を飛び出してから半日くらいが経つ。幼稚園に子供を連れていくフリをして迎えに来てくれた『ユウ』の待っていた車に乗り込んだ。そこから、マンションの一室に移動して保護を受けるための手続き書類を書いた後、着替え、用意してもらった軽食を取った後この車に乗り換えた。『ユウ』は「僕はここまでしか一緒に行けないけど、これから行く場所は安全な場所だから、安心して。向こうについたら、また連絡してね。待ってるよ。」と送りだしてくれた。

 正直なところ、本当に安全な場所に連れて行ってもらえるかは自信がなかった。さっき書いた書類もそれらしいものだったけど、本物かは分からない。彼女が唯一信頼できるものがあるとすれば、『ユウ』が実在していたことくらいだ。SNSの中でやりとりし、いつも自分のことを気にかけてくれた彼のことは、ネットの中だけの偽善者か、システムの中のプログラムか、という疑念をずっと拭えずにいた。でも、「迎えに行くから逃げてきて」と言われて、半信半疑でやってきた約束の場所で彼を見つけた時、これなら大丈夫だ、と思ったのだ。

 

 長編のアニメが終わると、また画面が切り替わった。今度は色白の若い女性だ。

「新しいお話、楽しんでくれたかな?はじめまして、私は『シュガー』です。これから行く場所についてお話します。今向かっている場所は『シェルターシティー』と呼んでいます。

 この街には、たくさんのお家があって、たくさん人が住んでいます。幼稚園や学校、お店もあります。でも、全部お家のお部屋から行けるんです。お家の外に出なくても大丈夫。お家に着いたら詳しくお話しますね。

 お家にはお風呂やトイレもあって自由に使えます。もし足りないものがあったら届けるので教えてくださいね。キッチンもありますが、お部屋から食事を注文できるので、食べたいものを選ぶとお弁当をお部屋に届けます。お菓子もありますよ。しばらくの間は生活費はかかりません。シェルターシティーにはたくさんのお仕事があるので、自分に合うお仕事を選んで頂いて、お仕事のお給料で生活できるようサポートします。

 詳しい過ごし方はお部屋でまた説明しますが、しばらくはお部屋の中で過ごして頂いて、少しずつ慣れて来たら外にも出ていきましょう。

 

お待たせしました、もうすぐ到着します。ようこそ、シェルターシティーへ!」

 

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