つくり話 再会④
前回の続きです。
三木との話を終えて自席に戻った彼は、ノートを取り出して三木との話と優香とのやりとりを整理した。彼女への思いと技術者としての仕事は別の話だ。客観的な事実を書き込んでいく。一通り書き込んだ後、コーヒーを淹れて席に戻り、考える。
最終的には仮想空間でアバターを使って生活する人達の世界を作るということだ。脳波でアバターを動かす事ができるのであれば、例えば現実世界で身体が自由に動かなくても仮想空間では思い通りに身体を動かせるようになる。
経済圏を作るということは、今まで制約があった人達もこの世界で働く可能性が出てくるということだ。もちろん消費する側としても経済活動に参加することができる。社会的な自立支援につながるはずだ。
一方で別の理由で現実世界での活動に制約のある人もいる。例えば不登校や引きこもり、DVなどの被害者など。もちろん全ての人が仮想現実で活動を望んでいるとは限らないが、安全を確保された状態で仮想空間での活動はできる人がいるだろう。彼らが経済活動に参加する事は、企業としてもチャンスだといえる。
ただし、この世界は仮想空間に存在する時点で「監視される」ことになる。その意味で監視役としてのAIを期待されているのだろう。倫理的に正しく状況を理解し、世界の住人を守るAI、というのはまだ難しい。過去にもネットの情報を読み込ませたAIが人種差別的な思想を学習してしまい、問題になったことがある。
つまり、正しい『心』を持ったAIを開発してくれ、という事なのだろう。少なくとも倫理的に正しい行動を取れるようにしなければならない。一方で、AI倫理の問題は技術者が度々問題提起をしており、AIが学習により間違った思想を取り込むリスクの排除は難しい。
どのようにAIを正しく育てるか。とても難しいが、それを任せてくれた三木にも応えたい。そのための基盤作り、一から新しいシステムを作る事になるのだろう、と彼は思った。
予算と人、本当につけてくれるのかな、と苦笑いしながら彼はノートを閉じた。