技術者ワーママ こころとからだの修理日記

技術職のワーママです。初期乳がん見つかったりうつになったり。でも何とか生きてます。

つくり話 再会17

ものすごく空いてしまいました・・・前回の続きです。機械学習の技術が進みすぎて、勉強が追い付かなったので詳細はボヤっとさせてます、すみません。今回で一区切りになります。またタイミングを見て続きの話を書きたいと思います!

 

彼はスマートスーツを脱ぐと、ゴーグルと一緒に李に渡してスタジオを出た。廊下で深く息をつく。

優香を傷つけてしまった後悔と、三木が今回のことを許してくれるだろうか、と言う不安が一気に押し寄せる。彼は強く目をつぶって首を振ると、歩き始めた。どのみち今彼女に直接自分ができることはない、自分がやるべき事をきちんとやって三木の信頼を得るしかないのだ。

 

デスクに戻ると酒井に打ち合わせのスケジュールを確認した。カウンセリングに関するデータの入手と、モニターをどのように集め、増やしていくかを決めるためだ。彼女が空いている時間を確保して、打ち合わせまでの間に計画の素案と必要になる情報を整理してリストアップする。予算の水準を3条件で仮置きして、モニター人数、入手データの量、開発にかかる期間など内訳となる項目をまとめたところで打ち合わせの時間になった。

 

「佐藤さん、カウンセリングも一緒に受けます?ちょっとお疲れじゃないですか?」

カウンセリングルームに入ると酒井が心配そうに話しかけてきた。彼は思わず苦笑いした。

「僕がメンタルやられたら本末転倒ですね、大丈夫ですよ。張り切り過ぎちゃって。」

優香の事を話すのもややこしくなりそうなので、ごまかしながら席につく。彼は本題を切り出した。

「早速ですが、カウンセリングの元となるデータについて相談させてください。既に公開されている文献などから必要な情報を整理したデータセットをベースに、足りない情報があるかどうかを確認いただきたいと思っています。それから・・・」

 

酒井との打ち合わせの後、必要なデータを整理して公開情報からの入手について調べた。一部学会からの入手できるデータを活用できそうだ。不足している情報は追加で取得する必要がある。公開されているSNSからのデータ収集ツールを少しアレンジすれば一通りのデータが揃う見通しが立った。このデータを基にメンタル状態を推定するモデルを構築することができる。さらにその状態が改善するためにどのアプローチするかについてもデータから予測モデルを作ることができる。あとは酒井に協力してもらってモデルの修正を行い、モニターに利用してもらって改善していく。予測モデルまでなら1か月もあれば形になるだろう。

彼は席を立つと、ポケットから取り出した振動するスマホの画面を眺めた。

 

「今日、ビデオ見せたんだろ、・・・どうだった?」

健人の緊張した声が聞こえてきた。しつこく聞かれて優香に会う日を教えてしまったことを彼は後悔した。

「あぁ・・・見せたは見せたよ。今の高校の様子はすごく喜んで観てくれてた」

嘘はついてない。

「そっか、喜んでくれたか!わざわざ一緒にケーキ食べに行ったかいがあったな」

ケーキは・・・喜んでなかったけどな、と言いかけた言葉を彼は吞み込んで

「そうだな」

とだけ答えた。

「それでさ・・・三木は、俺のこと何て?」

何と答えたものか・・・彼は少し考えて、

「あぁ・・・ちょっとわからなかったみたいだな。ほら、高校の時から雰囲気変わってるしな。すぐ思い出すよ、きっと」

と少し声のトーンをあげて答えた。

「・・・そっか。じゃぁ、会ったら思い出すか?」

「今はやめとけ。彼女に負担になったらいやだろ?」

「・・・わかったよ。でもいつか必ず会わせてくれよ」

「そのうち頼んでみるよ」

とても健人が原因で自分まで出入り禁止になったとは言えない。進展があれば連絡する、と伝えて電話を切った。

 

ー数か月後ー

 

「えっ、私がモデルなんですか?」

酒井が困惑した様子で三木の顔を見た。

「大丈夫、そのままモデルになるんじゃなくてスキャンデータ使うから。デモンストレーション用限定だし、もし要望があれば修正も・・・」

「そういう意味じゃありません!」

ピシャリと言われて三木が首をすくめる。

「仮想空間でカウンセリングを受けるイメージ動画・・・ということですね。ただ、今僕が提案しているのはあくまでスマホベースですが、どこで使うんですか?」

彼はむくれている酒井の顔色を見つつ三木に問いかけた。

「ほら、外から予算もらってくる、って話?あれは長期のプロジェクトで考えているから、将来イメージも作って見せておくと刺さるからさ、偉い人には。」

笑いながら三木は立ち上がると、会議室から外に出るよう促した。廊下を歩いて、スタジオの扉を開く。

 

李が笑顔で迎えてくれて、彼は少しほっとした。

「酒井さん初めまして。佐藤さんもお久しぶりです。どうぞ中へ。酒井さんはデータスキャンしますから奥に行きましょう。きれいに撮りますから安心してください」

酒井が奥に連れていかれた後、戻ってきた李の手にはゴーグルとスーツがあった。

「その間に、佐藤さんはこれ着てくださいね」

驚いて三木を見ると、笑顔でうなずいてセットの椅子を指さした。

「ちょっと見せたいものがあってね」

戸惑いながらスーツを着ると、いつもの椅子がある場所に座ってゴーグルをつけた。

「佐藤さん、行ってらっしゃい!」

李の声が聞こえた。

 

今日は優香の部屋ではなく初めて見る部屋だった。病室のようだ。

優香がベッドの上で上半身を起こしてこちらを向いていた。今までと少し様子が違う。

「・・・さとう、くん。ひさしぶり」

小さく、囁くような声が聞こえた。今までの声とは声質は同じだが違った。

「三木・・・話せるようになったのか?」

彼は声を震わせて言った。

「うん・・・すこしだけど。」

彼女がこちらを向いてぎこちなくうなずいた。表情が変わらない。

「からだも、うごかせるようになったの。見てほしくて」

少し手を挙げて見せた。

「うん・・・すごいな、ちゃんと動いてるのわかるよ。頑張ったんだな、三木」

彼は声を詰まらせながら優香に笑いかけた。こっちの表情は向こうには伝わらないけど、それでもよかった。

「さとうくん・・・ありがとう・・・」

外から声が聞こえる

「そろそろ終わりにしましょう、ちょっと頑張りすぎたね」

李の声が聞こえて、彼は優香に声をかけた。

「また会おうね、三木」

「うん、さとうくん、またね」

 

「ありがとうございました。本当に良かった」

彼はゴーグルとスーツを李に渡すと、李に頭を下げた

「いえいえ、また会いに来てくださいね」

李はそういうと奥にいる酒井の様子を見に行った。

三木は目を細めながら彼に話した。

「この前色々あった後、娘が『自分で話せるようにする』って言いだしてね、ジョージにも協力してもらってトレーニングを始めたんだ。自分で話すのとセンシングで話すのを同時並行にするのは難しいから、一時はコミュニケーションが全然取れなくなって大変だったようだけど、最近一通りの会話はできるようになったみたいだね。君のおかげだよ。ジョージの研究もリハビリの方法として注目を集めているよ。・・・もちろん、君にお願いしているプロジェクトはこのまま続けるから、これからもよろしく」

三木に差し出された手を彼は力強く握った

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

 

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